RS-485信号とは？

RS485信号の徹底解説：DMX信号の違いまで

工場やビルなどの産業現場、あるいは舞台照明やデジタルサイネージの制御など、様々な分野で活躍するRS485信号。その安定性と長距離伝送能力は、多くのシステムにおいて不可欠な要素となっています。

この記事では、RS485信号とは一体何なのかという基本的な概念から、同じく制御信号として用いられるDMX信号との違い、そして異なるインターフェース間で信号を変換する方法まで、約5000字のボリュームで徹底的に解説します。RS485の導入やシステム構築を検討している方はもちろん、産業用通信の基礎知識を深めたい方も、ぜひ最後までお読みください。

1. RS485信号とは？その基本と特徴

RS485（Recommended Standard 485）は、EIA（米国電子工業会）によって規格化された、差動平衡型のシリアル通信インターフェースの規格の一つです。主に産業環境におけるノイズ耐性と長距離伝送能力に優れており、複数のデバイスをデイジーチェーン接続（数珠つなぎ）して、一つの通信ライン上で効率的にデータをやり取りするために設計されています。

1.1. 差動平衡伝送方式

RS485の最大の特徴は、「差動平衡伝送方式」を採用している点です。これは、信号線を2本使用し、それぞれの線の電圧の差によってデータを表現する方式です。

シングルエンド伝送方式: 一般的なRS232Cなどに用いられる方式で、1本の信号線とグランド線を使用し、信号線の電圧レベルの変化でデータを表現します。ノイズの影響を受けやすく、長距離伝送には不向きです。
差動平衡伝送方式 (RS485): 2本の信号線（通常AとBと表記）を使用し、それぞれの電圧レベル自体ではなく、その差によって論理的なHigh/Lowを表現します。外部からのノイズは2本の線にほぼ等しく加わるため、受信側ではその差分を検出することでノイズの影響を効果的に除去できます。これにより、高いノイズ耐性と安定した長距離伝送が可能になります。

1.2. マルチポイント接続

RS485は、1つの通信ライン上に複数のトランシーバー（送信機/受信機）を接続できる「マルチポイント接続」をサポートしています。理論上は最大32台（規格によってはさらに多く接続可能）のデバイスを接続し、1つのマスターデバイスが複数のスレーブデバイスと通信したり、複数のマスターがバスを共有したりする構成が可能です。

1.3. 長距離伝送能力と高速通信

RS485は、適切なケーブルと終端処理を行うことで、最大1200メートル程度の長距離伝送が可能です。また、通信速度も比較的速く、規格上は最大10Mbps程度の速度に対応しています。ただし、伝送距離が長くなるほど、最高速度は低下する傾向があります。

1.4. 用途例

RS485はその特性から、以下のような様々な分野で広く利用されています。

産業オートメーション: PLC（プログラマブルロジックコントローラ）、センサー、アクチュエータなどの制御
ビルオートメーション: HVAC（空調）、照明、セキュリティシステムの制御
POSシステム: 端末、プリンター、スキャナーなどの接続
計測機器: データロガー、分析装置などの接続
舞台照明制御: DMX512の物理層として利用（後述）
デジタルサイネージ: 複数のディスプレイの制御

2. DMX信号とは？RS485との違い

舞台照明やエンターテイメント業界で広く用いられるDMX512（Digital Multiplex with 512 pieces of information）信号は、物理層としてRS485の規格をベースにしています。しかし、その目的やプロトコルにはいくつかの重要な違いがあります。

2.1. DMX512の目的とプロトコル

DMX512は、主に照明器具（調光器、ムービングライトなど）をデジタル制御するために開発されたプロトコルです。1つのDMXユニバースと呼ばれる通信ラインで、最大512チャンネルの制御情報を送信できます。各チャンネルは0〜255の範囲の値を持ち、照明の明るさ、色、パン・チルトなどのパラメータを制御するために使用されます。

DMX512のプロトコルは、スタートコード、512バイトのデータ、パケット間のブレーク信号などで構成されており、リアルタイム性が重視される用途に適しています。

2.2. RS485とDMX512の主な違い

特徴	RS485	DMX512
主な目的	汎用的なシリアル通信	照明器具の制御
プロトコル	物理層の規格であり、上位プロトコルは任意	特定の制御プロトコル（スタートコード、データなど）
データ形式	一般的なシリアルデータ（バイト単位など）	0〜255の範囲のチャンネルデータ（最大512個）
通信方向	半二重、全二重に対応可能	半二重（主にマスター→スレーブの一方向通信）
接続台数	理論上最大32台以上	推奨最大32台（負荷やケーブル長に依存）
ターミネータ	推奨	必須
用途	産業制御、計測、POSなど	舞台照明、エンターテイメント照明

このように、DMX512はRS485の物理層を利用していますが、その通信プロトコルと用途は大きく異なります。DMX512は照明制御に特化したプロトコルであり、RS485はより汎用的なデータ通信の基盤技術と言えます。

3. RS485信号の変換方法

異なるインターフェースを持つデバイス間でRS485通信を行いたい場合や、RS485信号を他の形式に変換して利用したい場合があります。ここでは、一般的な変換方法について解説します。

3.1. RS232C – RS485変換

RS232Cは、比較的短距離の一対一通信に用いられるシリアルインターフェースです。RS485の長距離・マルチポイント通信の利点を活かしたい場合、RS232C信号をRS485信号に変換する必要があります。

変換器の利用: RS232C – RS485変換器（コンバーター）を使用します。この変換器は、RS232Cのシングルエンド信号をRS485の差動平衡信号に変換し、電圧レベルや信号の極性を調整します。市販の変換器には、電源供給が必要なものと、RS232Cポートから電源を供給できるものがあります。
配線: RS232C側のTXD（送信データ）、RXD（受信データ）、GND（グランド）線を、RS485側のA、B端子（極性に注意）とGND端子に接続します。
終端抵抗: RS485の長距離伝送を安定させるためには、通信ラインの両端に適切な終端抵抗（通常120Ω程度）を接続することが推奨されます。変換器に内蔵されている場合もあります。

3.2. USB – RS485変換

PCなどのUSBポートからRS485デバイスと通信したい場合に使用します。

変換ケーブル/アダプターの利用: USB – RS485変換ケーブルやアダプターを使用します。これらは、USBのデジタル信号をRS485の差動平衡信号に変換する機能を持っています。多くの製品は、仮想COMポートドライバーを提供しており、PCからは通常のシリアルポートとして認識できます。
ドライバーのインストール: 変換ケーブル/アダプターに付属のドライバーをPCにインストールする必要があります。
配線: RS485側のA、B端子（極性に注意）とGND端子に接続します。
終端抵抗: 長距離伝送の場合は、通信ラインの両端に終端抵抗を接続します。

3.3. Ethernet – RS485変換

ネットワーク経由でRS485デバイスと通信したい場合に使用します。

IP – シリアル変換器の利用: Ethernet – RS485変換器（IP – シリアル変換器、シリアルデバイスサーバーなどとも呼ばれます）を使用します。これは、Ethernet TCP/IPなどのプロトコルで受信したデータをRS485信号に変換したり、RS485で受信したデータをTCP/IPパケットに変換してネットワークに送信したりする機能を持っています。
ネットワーク設定: 変換器にIPアドレスやポート番号などのネットワーク設定を行う必要があります。
ソフトウェア: PC側では、変換器が提供する専用のソフトウェアや、仮想COMポートソフトウェアなどを利用して通信を行います。
配線: RS485側のA、B端子（極性に注意）とGND端子に接続します。
終端抵抗: 長距離伝送の場合は、通信ラインの両端に終端抵抗を接続します。

3.4. DMX – RS485 (汎用シリアル) 変換

DMX512信号を汎用的なRS485シリアルデータに変換したり、その逆を行ったりするケースは、特殊な制御システムを構築する場合に考えられます。

専用の変換器/コントローラー: DMX – RS485変換に特化した専用のハードウェアやコントローラーを使用します。これらのデバイスは、DMX512のプロトコルを解析し、特定のチャンネルの値をRS485のシリアルデータとして出力したり、RS485で受信したデータをDMX512のチャンネル値にマッピングしたりする機能を持っています。
プログラミング: 変換のロジックは、使用するハードウェアやコントローラーによって異なるため、詳細なプログラミングや設定が必要になる場合があります。

4. まとめ

RS485信号は、その優れたノイズ耐性と長距離伝送能力により、様々な産業分野で重要な役割を果たしています。DMX512はRS485を物理層として利用する照明制御に特化したプロトコルであり、その目的とプロトコルは大きく異なります。異なるインターフェース間でRS485通信を行ったり、RS485信号を他の形式に変換したりする際には、適切な変換器やアダプターを利用し、配線や終端処理に注意する必要があります。

この記事が、RS485信号に関するあなたの理解を深め、実際のシステム構築に役立つ一助となれば幸いです。

参考文献

wpmaster – kusamura

第八項 PCとの連携・シリアル通信基礎 – kusamura